京町家の再生 高辻の京町家II

大正末~昭和初期頃に建てられた厨子2階(軒高が低い)の京町家。洋品店を営んでおられたため、ファサードやミセの間は大きく改造されていましたが、大きな火袋が建てられたときとほぼ同じ状態で残されていました。今回も、「もとの状態に戻しつつ住みやすいように工夫を凝らす」という視点で取り組みました。
京町家のリノベーション 1) 施工

典型的な看板建築の町家。
外観を彩っていた格子や下屋が跡形もない。
柱も全て撤去されている。
ここから元々の状態を探って復元していくことに。

まず、建物の内部の改変を加えられていた部分を全て解体撤去。
その上で、不動沈下と歪みを補正。
いつものことながら、トオリニワの側柱が沈下していたので油圧ジャッキで持ち上げ、葛石を据え直し。
今回は、屋根を残しつつの改修になり重量があるため、注意が必要。


特に大変だったトオリニワと火袋。
足場を組み、長年の埃を落とし、荒壁を下地から塗り直す。
もちろん、給排水管・ガス配管・電気配線は一新し、全て壁や床下に整理。
快適さを確保するために、土間を残さず、床を張って床暖房&バリアフリーとした。

2階外部の意匠を硝子障子から虫籠窓(むしこまど)へと変更。
建てられた当時の意匠は不明だが、施主様と相談のうえ虫籠窓を採用する事に。
下地つくり~仕上げの漆喰塗りまでそれなりの手間が必要。しかし、過去から受け継がれて来たその意匠には手間をかけるだけの価値がある。
階段も、撤去されて別の場所に作られていましたが、もともとあった場所(ナカの間、押入の中)に造りなおす。蹴込は杉板。今回の現場は牛田くんに頑張ってもらいました。

淡路産80枚物版・軒先2寸一文字を採用。また、熨斗(のし)は軽快な印象を得るために、木熨斗(きのし)のみを採用。
下屋の印象は瓦の大きさはもちろん、軒先や熨斗の仕様によって大きく異なる。
塗装は、わびすけ(ベンガラと玉墨が混ざっている塗料)を採用。傷んだ木材も塗り直しで昔の風合いが蘇る。

あまり間近で見る機会がない土間の洗い出し。当たり前のことだが、全ての石の形状、大きさ、色艶は一粒ごとに異なる。また、これら細かな石を満遍なく敷き詰めて、決められた高さに土間を納めるのは左官の腕の見せ所。
京町家のリノベーション 2)竣工

出格子、一文字軒、虫籠窓、鍾馗さんと、親しまれた意匠を取り戻した外観。
左端の犬矢来の中にはガスメーター。

もともと、土間に改造されていた空間。
建具・敷框・式台などを配置し、昔の雰囲気を取り戻す。
新調した部材はあえて着色せず白木の良さを楽しむ。
床は、床暖房用竹フロア。


壁は中塗仕上。キッチンは、杉板の衝立でめだたないように。
換気扇のダクトも古色塗に。
式台は地松。踏込石は現場にあるものを再利用。


座敷・2F奥の間とも、垂直水平の確保など、躯体の矯正を行っただけで、ほぼ元のままの意匠。
古い天井板も、綺麗に水拭きすることで、昔の艶を取り戻す。

火袋・階段室から降り注ぐ光がまぶしい。
2Fは左官塗替、畳表替、襖張替などに簡単なリフォームに留めている。
しかしながら、1Fがきちんと直ったことで、2Fも自然ときちんと直すことができた。

先々代から引き継がれてきた建物。
時代の状況が変化する中で、利便上場当たり的な改修が施された部分は、ほぼ全て初期の状態に復元。過去から学び、当時の日本人の感性を探りながらの保守改修。 毎度の事ながら、昔の日本人の上等な感性を学ぶとてもよい機会を与えて頂いています。