京都の町家を守る見習い大工/前編

ナレーション(以下N)「古都京都の歴史を伝える木造建築物を修復し、次の世代に残そうとしている大工達がいます。 あらかじめ用意された建材を組み立てる、今時の大工達とは違い、長年の経験と自らの腕を頼りに、家を建てる大工。 そんな伝統の技にあこがれてこの世界に飛び込んできた青年がいます」
京町家を守りたい工務店の社長と見習い大工。2人の春

桜井「お客さんに喜んでいただける仕事ができる大工になりたいです」
N「しかし残したい建物は、京町家と呼ばれる京都独特の建築物。技術の習得には努力とセンスが必要です。見習い大工に与えられた時間は5年」
荒木「5年以内に墨付けをして自分で家一軒建てられないとダメなんです」

N「その5年目を迎えた青年に、試練が待ち受けていました」
荒木「できなかったらクビですね」
N「京町家を守りたい工務店の社長と、見習い大工。2人の春を追いました」

N「建築基準法により新築するのが難しいという京町家。そんな中、老朽化する京町家の修復に力を入れているのが、このアラキ工務店です。14人の腕のいい職人を抱え、今では少なくなった京町家の修復ができる工務店として、貴重な存在です」

N「朝7時。まず集まってくるのは見習い大工の若者達。現在5人が修行中。その中で正念場に立たされているのが今年5年目を迎える桜井宏昭さん」

N「この日、桜井くんが向かった現場は、百年前にたてられた京町家。傷んだ塀に栗の控え柱をつけて補強する仕事です。見習いとはいっても貴重な戦力。これまで4年間、時に怒鳴られながら先輩達の背中を追ってきた桜井くん。しかしあと1年で一人前と認められなければ、京町家を修復する大工への道は閉ざされてしまうのです」
与えられた試練

N「3月31日の夜。新年度を迎えるに当たって荒木社長は5人の見習大工を集めました」
荒木「これは、下の控え室にずっと貼ってある目標です。1年目のかたも、5年目の方も、ここに書いてあることがきちんとできるように1年間頑張ってください。どうでしたか?4年間は?」
桜井「あっという間です」

荒木「4年目ぐらいになると焦るでしょ?」
桜井「はい」
N「見習い大工には毎年クリアしなければならない目標が課せられています。新年度も頑張れるかどうか確認のための呼び出し。最後の年を迎える桜井くんには、特に厳しい言葉が待っていました」

荒木「桜井君は来年には、晴れて一人前になってきちんと大きな現場もやらなければならないので心して頑張ってください。できなかったら後がありませんので、よろしくお願いします」

荒木「5年で一人前になれなかったら、人の手伝いしかさせられません。それだったら会社にいる意味がない。例えば、10年ここにいてずっと誰かの手伝いをしているんだったら、他の仕事やった方がいいですね。本人のためにも早く見極めをつけて、できなかったら辞めるべき。できるんやったらとことん頑張る。どっちかですね」

N「一人前の大工になって、京都の伝統を守りたい。そんな桜井くんの思いを試すかのように荒木社長は早速試練を与えようとしていました」
桜井「テラス屋根です」
N「初めて1人で仕上げなければならない責任ある仕事が与えられました」

荒木「そこはまあ少し墨付けもありますのでそこをさせようかなと」
N「桜井くんの前では厳しいことをいっていた荒木社長。しかし本当は比較的作りやすいテラス屋根で自信をつけて欲しいと願っていました。」