京都の町家を守る見習い大工/後編

いよいよテラス屋根作り

N「図面を頼りにテラス屋根を作ります。初めて任された責任ある仕事。期待と不安が交錯します。図面と格闘すること1時間。いよいよ見習い5年目の課題となる墨付作業に入ります。まずは祈るような気持ちで柱となる木材の切断部分に朱色の線を引きました。頭にたたき込んだ図面を立体的なイメージで墨付けをしていきます。ちょっとしたミスが命取りになる繊細な作業。プレッシャーと闘いながら孤独な作業は続きます」

(中略)
N「2日間にわたった桜井くんの墨付作業もいよいよ終盤。失敗は許されません。明日からはこの墨付に従っていよいよ木材の加工作業に入ります」

N「その夜、荒木社長は職人達を食事に誘いました。5年目を迎えた桜井くんの激励会でもあります。先輩職人と腹を割って話してもらうための荒木社長の配慮です」
荒木「できると思って頼んでるんやから、大丈夫やて」

黒川「オレが5年目の時よりも全然できますよ。ほんとに」
桜井「どうもありがとうございます」

N「先輩の言葉が何よりの励まし。翌朝から墨付けに従って木材の加工が始まりました。こうして加工した木材を組み合わせてテラス屋根を作るのです。作業を手伝ってくれるのは、見習い2年目の斉藤くん。指示をされる側からする方に回るというのはちょっぴり複雑な気分。気を引き締めて心を込めて木材を加工していきます」
新たな難題

N「ここに来て桜井くんを悩ませる問題がありました。それはこの入り組んだ屋根の部分。
高さと長さが違う軒に対してどうやっておさめていけばいいのか」
桜井「寸法を出すのが難しいんです」

N「既存の屋根はそのままに組み付けなければなりません。新たな難題が立ちはだかりました」
N「5人いる見習い大工の紅一点が3年目の山脇美保さん。女性らしい繊細さを持った大工として期待のホープです」
山脇「やっぱり組み立てるまではドキドキしますし墨通りやってても、なんか、大丈夫やったんだろうかと今でも心配です」

N「山脇さん以上の重圧の中、5年目を迎えた見習い大工の桜井宏昭さん。見習い2年目の斉藤くんに手伝ってもらって組み立て作業に入りました。
木材がスムーズに結合するのは墨付がうまくいった証。まずは合格点がもらえそうです。見習2人の仕事ぶりを先輩職人がチェックします。かつては自分たちも同じ道を歩んできたので自然と気になります」

荒木「あったかいねー。」
N「やってきたのは荒木社長。墨付け通りにできているか。そして入り組んだ屋根の部分をどうするのか。自ら確認に来たのです。

N「せっかく屋根を作っても雨が漏れたら意味がありません。荒木社長は桜井くんのプランを聞いて安心したのか、次の現場に向かいました。桜井くんは既存の屋根に結合する部分は形に合わせてノミで削って微調整をしていきます。繊細な作業が続きます。やがて骨組みが完成しました」

N「このとき今まで黙って見ていた先輩職人の黒川さんが桜井くんに声をかけました。波板と既存の屋根のすき間が空いているためこのままでは雨漏りの恐れがあるのです。黒川さんの顔が曇ります」
桜井「完全にっていうのは難しいのでどうしようか・・・」

N「完成を間近にしてまさかの問題発生。見習い5年目の崖っぷち、起死回生のアイデアは見つかるのでしょうか。」
( C M )

N「桜井くんは木材の位置をずらし波板を増やすことですき間を無くし、全ての雨が問に流れるように工夫しました。これなら問題は解決。」
桜井「上出来です」
一人前の大工へ一歩前進

N「見習い5年目の集大成、桜井くんの作ったテラス屋根が完成しました。タイミングを計ったように荒木社長がやってきました。できあがりの具合をチェックします。荒木社長が目を細めたのは釘一つの打ち方まで丁寧に仕事がされていたこと。波板の角度も充分で雨漏りする心配も無用のようです」
んね」

桜井「計算してた通りです。よかったです」
荒木「まあ普通のテラスやしこれがなんやといわれたらそれまでです。これぐらいはパッパッとおさめてくれんと。いけませ

N「一人前の大工へ一歩前進。京町家という木造建築を後生に残すという使命を背負って仕事をするアラキ工務店の大工達。そんな一人前の大工になることを目指す青年と見習い大工をやさしく見守る社長の姿。そこには日本の文化を守る職人の生き様がありました」