縁側のある民家II
長い間空き家だったお住まいです。おじいさんの代から受け継がれてきた大切なお住まいでしたが、仕事や転勤や結婚などで、やむなく空き家になってしまったのです。
そんなお住まいでしたが、解体するにはしのびません。今回は、何とか思い出を引き継ぎたいとの申し出をいただきました。お住まいをほぼ原型のまま残し、家族みんなが集えるように手を加えています。
竣工までの道のり
着工するまでは、樹木に覆われて、どこから手をつけていいかわからないような状態でした。
でも、調査したところ、意外と建物の躯体の中までは、蟻害や腐朽は進んでいないようでした。もちろん、柱が下がったり天井に穴が開いていたりしているところもありましたが、改修可能な範囲です。
まずは、生い茂っていた樹木を伐採します。巨木の根が石組みの間に侵入していてやっかいでした。その後、傷んでいる部分を全部めくっていきます。どこが傷んでいるのか調査するのが全ての基本です。
大正末期か昭和初期の建物のため、足元が煉瓦基礎であったり、無筋モルタル基礎であったりしました。伝統木工法で建てられているとはいえ、過渡期の構造です。本に掲載されているように葛石で補強するには柱の寸法がたりなくなるので、煉瓦を布基礎に作り直しています。
雨が漏っている部分は、野地からやりかえました。また、1Fの敷居は全部磨り減っていたので、取り替えています。 大工さんの腕が生きる仕上げです。
左官工事も並行してやっていきます。結構良質の荒壁土が塗ってありました。解体した荒壁土に新しい藁や土を混ぜて再度塗っていきます。ほとんど真壁造のお住まいでしたので、左官工事に大変時間がかかりました。
家中の建具も建てあわせをします。なくなっていた格子桟もあちこちにありました。大正期の建具なので、ガラス押桟がないものもありました(この復旧は大変手間がかかりました)。また、室内の建具や枠には、雨染みがひどい箇所がたくさんあり、それらは、薬品を使って綺麗に洗い、その後で、自然系塗料を塗りました。
最後に外構です。玄関前は、アヤメ貼板塀。南庭には、四つ目垣+生垣。ガレージの奥はアルミフェンスと適材適所の材料を使っています。
広い縁側と続きの和室
玄関
今回のお住まいは縁側が素敵です。僕も、こんな広い縁側の家に住みたいなぁと思います(笑)。建具の下が白いのは、傾いた柱やあわせて寸足らずになっていたので、材料を足したためです。
玄関の框と床板は、蟻害がひどく、ピーラー材で取り替えました。関は少し凹んでいます。
左は縁側の外部です。ガラスが古くて景色がくにゃくにゃと写りこんでいますが、これが味です。
2間続きの和室です。建具がこうして並ぶと綺麗ですね。昔の意匠のよさがよくわかります。
正面の襖の向こうに茶の間があります。縁側はそこまで続いています。
お座敷です。
ここは、襖も昔のまま残しています。垂直水平を直し、畳を入替えと聚楽壁を塗り直しただけの内装です。
竿縁天井はそのままですが、見習い君が3回も、水洗いをしてくれたので、みちがえるようになりました。
生垣を植える前の写真なので道路がみえていますね。
掘りごたつは再利用しています。
南からの光が燦々と降り注ぎ、日差しが照れば冬でもぽかぽかと暖かいです。
見た目は一緒ですが、実は、床下は根太組からやりなおし、縁側も含めて断熱材を詰め直しています。左の壁にも地窓がありましたが、TVを置くスペースになるので、撤去しています。
玄関。WCに通じる建具
廊下は、シルタッチフラット(漆喰調仕上材)を塗っています。漆喰と手間は変わらないのですが、割れにくく、クリームの発色が綺麗なのでよく使います。
左の写真の右側の建具は、もともとお風呂の窓でした。真っ白な建具でしたが、明らかに違和感があるので、色を合わせています。
水廻りは一新しています。トイレはタイル貼りでしたが、給排水管を新調するため、壁下地からやりなおしています。脱衣・洗面の窓も、当初木製でしたが、表から見えない部分なので、断熱を優先してアルミにしています。洗面ボウルは、実は、TOTOの「病院流し」です。非常に大きくて、収めるのに苦労しました。
最初、植木の伐採をしましたが、その後、1ヶ月も経たないうちにどんどんと雑草が生えてきて、植物の生命力に驚いています(安心した頃に、ひょこっと竹がでてくるとドキッとします)。
でも、これからは大丈夫です。リフォームに時間がかかりましたが、大切に住み続けられるお住まいに再生できたと思います。みんなで素敵な庭をつくり、家族そろって過ごされることでしょう。お住まいを建てられた大工さんもきっと喜んでおられるなと思います。
これからも、いろんなご縁を大切にし、1軒でも古いお住まいを残していきたいと願っています。