アラキ工務店 京都市右京区:京町家、古民家、大工さんと建てる家

アラキ工務店 株式会社 アラキ工務店

町家探訪

5.町家 大沢家(続)

(埼玉県川越市)

 川越では、明治の大火を受けて座敷蔵が建築されるようになった。蔵の耐火構造が倉庫を越えて、住居などにも利用されるようになったものである。
荒木 天井が高く、かつて蔵に利用されていたのでしょう。
 床框は黒檀貼りです。これは、江戸時代にできた板を張り合わせる技術を受け継いだものですね。
 床柱は赤松で、芯を抜いた皮付丸太が使われています。また、茅葺民家で使われていた煤竹が利用されていますが、200年~300年経ているので、絶妙な味がでています。これは、どちらかというと、関西好みですね(^^ゞ。派手ではなく、粋・・・といった感じでしょうか。

白井 明治の大火を教訓として、それ以降の建築には、日本の伝統的な耐火建築である土蔵造りを取り入れた、ということですが、漆喰壁が黒色というのは、なにか意味があるのでしょうか?

荒木 一般にはこの黒壁は『江戸黒』と称され、贅沢普請の一つだったと思います。黒壁というのは、白漆喰の代わりに塗るのではなく、白壁の上に更に黒漆喰を塗って仕上げるんですよ。しかもその表面は手で磨きたてられ左官の手間がかなりかかります。
 蔵造りというのは、当時の普通の住まいの10倍近い費用がかかります。防火の知恵だけでなく、川越商人の富の象徴だったのかもしれませんね。

白井 こちらは、山崎さんのお住まいです。
荒木 大変立派な蔵ですね。水切りを漆喰でかためて、防風・防火を意識したデザインになっています。また、延焼を防ぐために両脇に大きな袖うだつがあがっています。戸袋も土戸を収納するために普通の倍の厚みになっていますね。

白井 表から拝見すると、屋根がとてもきれいですね。  銀灰色の美しい瓦を京都で焼かせ、1枚1枚を丁寧に包装して運ばせたという。関東ローム層の当地の土は焼くと脆く、瓦に適さないからだ。
白井 荒木さん、お店に入ると、立派な梁が目に付きますね。
荒木 これは、立派な欅ですね。欅は暴れやすく、構造材に用いるためには、100年位前から材を用意することもあるんですよ。これ1本で小さな家が建つかもしれません。
 また、いたるところにRが施されています。これは、デザインだけでなく、強度を保つための工夫だと思います。
 入り口の扉枠はシオジです。材に光沢があるだけでなく、耐久性があり、狂いが少ないために枠材が使われたと思います。

白井 さて、袖蔵にやってきました。特徴的なことは?
荒木 そうですね。蔵の内部も木戸と土戸で構成されています。
 また、蔵の扉も疵がつかないように、戸前包が施されています。

 この戸を見てください。戸を留める栓が施されています。戸の重量があるので、戸を施工してから後付けされたものだと思います。
 施錠には海老錠を利用して蔵の扉が固定される仕組みになっています。
 こうした工夫で、土蔵が残れば、貴重な財産は助かるし、焼失した居住区を建てなおすまでの仮住まいとしても利用できるんですね。

白井 こちらは屋根裏です。蔵造ということでかなりの重量が乗っていると思いますが、棟を支える工夫はどのようなものがありますか?
荒木 建物全体で支える工夫が凝らされています。
 天秤梁が見えますね。普通は両端で重量を支えるのですが、中引梁でも受けています。
 また、火打梁が斜めに打ってあり、明治期の工法の特徴があらわれています。
白井 蔵に窓が少ないように思いますが…
荒木 これも火事のとき目張りをしなければならないので、減らしたのだと思います。

白井 いかがでしたか? 川越の蔵造り町家は、江戸・明治・大正と各時代の特色がよく反映されていました。
 文化というものが、われわれの生き方、生活様式であり、昔から広く共感を得てきたものであるとすれば、川越の住まい文化はまさに文化を具現化したものではないかと思います。
 文化というものが究極のところ人間の生きる形とするなら、時代とともに生きる形も変わっていくのかもしれません。

30分番組のため、一部省略して掲載しております。
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